
ある日突然発生した肋骨(ろっこつ)付近や体幹に現れる電気が走ったような痛み。それも我慢できるものではなくチクチク、ズキズキと針を刺すように持続する・・・。そんな経験はありませんか?今回は、肋間神経痛に関する痛みの病態を解説していきます!
肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)とは?
肋間神経痛とは、人間の身体には肋骨という肺や心臓を守る役割のある大切な骨が存在しており、背中から胸の前側を囲むように、左右に12本ずつ骨があります。その肋骨と肋骨の間を通っている肋間神経という神経が何らかの影響によって刺激され、上半身に痛みが出る症状です。
上半身の左右どちらかに痛みが出ることが多いことも肋間神経痛の特徴です(逆に両方にでることは稀)。肋間神経痛は病名ではありませんが、何らかの原因で肋骨・脇腹・背中辺りに痛みを感じる状態を表す言葉です。
肋間神経痛ってどんな症状?
肋間神経は12本の肋骨に沿って伸びる神経であるため、呼吸や咳、上半身を動かす運動により痛みを強く感じることが多いです。原因によって痛み方は違い「急に電気が走るような痛み」や「ジクジクとした持続する痛み」などがあり、痛みの起こる場所は背中から脇腹、胸の前面やおへそ辺り、まれには足の付け根まで痛みを感じることもあります。
肋間神経痛は、体を動かすと些細な動きでも影響を与えることが多く、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。また、肋骨の骨折や胸椎の骨折、肋間筋の損傷、ウィルスによる帯状疱疹(たいじょうほうしん)やガンなど、他の内臓疾患でも痛みは起こる可能性があり、注意が必要です。
肋間神経痛の原因とは?
肋間神経痛はその原因から原発性と続発性に分かれます。
原発性(症候性)肋間神経痛
胸椎椎間板(きょうついついかんばん)ヘルニアなどの背骨自体の変形や不自然な姿勢をとった時、また運動不足や疲れによって神経が骨や筋肉に挟まり、締め付けられることによって発症します。
原発性の痛みは左右どちらかに鋭い痛みが肋骨に沿って走るのが特徴で、身体を動かした時、特に上半身を前後に曲げたり左右に曲げたり廻したりすると痛みを強く感じることがあり、時には「息ができないほど痛い」こともあります。
続発性肋間神経痛
水痘・帯状疱疹(すいとう・たいじょうほうしん)ウイルスが原因で起こります。
初めて水痘帯状疱疹ウイルスに感染した時には水痘となりますが、治ったあとも神経にウイルスが潜んでいる(潜伏感染)ことがあり、ストレス・疲労などが原因で免疫機能が低下した際に、皮膚に赤い湿疹ができ、痛みを引き起こすことがあります。
帯状疱疹は、帯状疱疹ウイルスが神経の中を通って皮膚に達して皮疹を起こす疾患ですが、胸部に発症すると肋間神経痛を起こします。帯状疱疹による肋間神経痛は、皮疹の有無に関わらず「ヒリヒリ」「ジクジク」とした皮膚表面の持続的な痛みを感じます。
また、別の例としてホルモン分泌のバランスが悪くなることで、肋間に痛みが生じることもあります。
例えば代謝を上げる作用のあるアドレナリン、ノルアドレナリンというホルモンが分泌されていますが、このホルモンのバランスが崩れても痛みが生じることがあります。さらに、狭心症(きょうしんしょう)も肋間神経痛と類似した症状を示すことがあるようです。
以下に、肋間神経痛を引き起こす可能性のある疾患やそれに類似した痛みを生じさせる可能性のある病態の例を挙げます。
・くしゃみ、咳
・帯状疱疹
・胸椎椎間板ヘルニア
・変形性脊髄症(へんけいせいせきずいしょう)
・脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)
・肋骨骨折
・肋骨の腫瘍
複数の疾患を例に挙げましたが一般的にほとんどの場合は、やはり長時間続く負担のかかる姿勢、運動不足、疲労、ストレスなどで肋間神経が骨や筋肉に挟まり、締め付けられている状態から起こることが多いようです。
肋骨を支えている肋間筋は、息を吸い込むときに胸を大きく広げる外肋間筋(がいろっかんきん)と、息を吐き出す時に胸を縮める内肋間筋(ないろっかんきん)で構成されています。
パソコンやスマートフォンを不自然な姿勢で長時間操作したり、ストレスによる身体のこわばりは肋間筋が固くなって肋間神経を圧迫し、肋間神経痛を引き起こすことに繋がります。
男女問わず、様々な年代で起こる肋間神経痛は妊婦さんにもよく起こります。お腹が大きくなると、お腹の内側から圧がかかり、筋肉が伸ばされ痛みが生じます。
横隔膜が圧迫されやすい妊婦さんは腹式呼吸も難しいので肋骨の動きに合わせた呼吸になってしまい、肋間神経痛を引き起こしやすいとされています。
肋間神経痛の治療法とは?
肋間神経痛は、その原因によって治療法は異なります。
重症の肋骨骨折を除いて外傷によって肋骨を痛めた時に起こる肋間神経痛は、消炎鎮痛薬の内服で治療できます。
脊椎の疾患が原因の場合は、MRI等の画像診断を含めて原因の重症度を診断したうえで、外科的手術が行なわれることがあります。軽症の場合は、消炎鎮痛薬や神経障害性疼痛に有効な内服薬、さらにリハビリテーションやストレッチなどの運動療法が行なわれることもあります。
帯状疱疹の場合は、発症早期の抗ウイルス薬の投与と、肋間神経痛が強い場合は神経障害性疼痛専用内服薬が有効な治療法です。
手術適応がなく内服薬でも治らない場合、また原因がはっきりしない特発性肋間神経痛の場合は、神経ブロックが適応されます(神経ブロックとは痛みの原因となっている神経に局所麻酔薬や消炎作用の強いステロイドを注射して治療する方法で、多くは専門医で実施します)。
肋間神経痛の治療例(リハビリテーションの観点から)
肋間神経痛の治療としては背部、体幹側面(脇腹)や特に痛みが出ている肋間を中心に側胸部、前胸部の肋間神経を狙ってアプローチしていきます。
背骨や骨盤が歪むと肋骨の付け根である胸椎部分に負担がかかり、肋間神経痛が起こりやすくなります。また、体幹周囲のインナーマッスルが低下すると背骨や肋骨を支えられなくなり、痛みがより起こりやすい状態になります。
体幹の柔軟性が低下したり骨や関節組織が弱体化することにより血行不良が起こり、これも肋間神経痛の原因になります。
まずは体幹筋や骨、関節の柔軟性などの状態を整え、肋間神経への刺激を減らして行きます。その上で、腹圧の調整、インナーマッスルの強化を行うことで体幹を支える力を整え、肋間神経痛の症状軽減を図っていきます。
また、痛み刺激により全身の筋肉に緊張が入りやすくなる(こわばり)こともありますので、その治療も同時に行っていけると治療効果も上がりやすくなります。身体の様々な状態を見て動作や生活上の助言なども行なっていきます。
肋間神経痛になったら心がけること!
少しでも自分で早く痛みを取り去りたい気持ちも分かりますが、やってはいけない事もあります!
1.身体を無理に動かさない
身体に負担がかからない軽い運動であれば肩や背中、肋骨の可動域を拡大することができるため、痛みが和らぎます。また、適度な運動は予防にも繋がります。しかし痛みが強い場合は、無理に運動することは避けてください。
2.痛みを放置しない
肋間神経痛の痛みは人によって様々です。「すぐに良くなるだろう」と油断していると、場合によって日常生活にも支障を来してしまう可能性もあります。痛みのレベルにかかわらず自己判断は避け、専門家に相談するようにしましょう。
3.ストレスを溜めない
ピリピリ、チクチクする痛みはストレスを生じます。ストレスは神経系を過度に刺激するため痛みが増幅する作用がありますので、休息と運動のバランスを取る必要があります。
また笑ったり、楽しいと感じる場面が多いとストレスの緩和にも繋がりますので、積極的にストレスを解消する活動が好ましいと言えるでしょう。
肋間神経痛の予防法!
日々の生活でストレスが溜まっていたり、胸が縮まった背中が丸くなるような姿勢が長時間続くと、肋間筋が固まりやすい状態であると言えます。
同じ姿勢が長時間続いたときは、軽くストレッチをするなどの対処をして身体を動かすことが大切です。ラジオ体操のような大きく胸を広げ、深呼吸するような運動も予防になります。
また、昔から「冷えは万病のもと」と言われています。夏場は特にクーラーの風にあたり過ぎたり、冷たい飲み物を取りすぎると身体が冷えてしまい、結果自律神経の乱れにも繋がりますので、暑い季節でも身体の冷えすぎには注意するようにしましょう。
さいごに
何らかの病気やストレス、疲れなど様々な原因から発生するとされる肋間神経痛について、今回その病態を解説しました!突如あらわれた肋骨や胸の痛み。出現した直後は心臓?それとも肺?など心配になることもあると思います。
肋間神経痛が痛みの出現の原因である場合は、まずはきちんとその原因を見極め、それに見合った方法で(上記に紹介した内容)対策し、痛みを取り除いていくようにしましょう。
もし痛みの出現に耐えられない場合や全く原因が不明である場合は我慢はせず、できるだけ早めに近医を受診するようにしましょう。
ご高齢になっても、また病気を罹患された方でも、いつまでも元気で健康な体を維持できるよう皆さんを応援しております!